わがまま君と従者










窓から暖かい日差しが差し込んでくる。

司馬懿はその暖かな陽気で目が覚めた。

が、その瞬間、ガバッと勢いよく飛び起きた。


寝起きのままの頭を懸命に起こそうとする。

外の陽の高さをみると、どうやら昼近いらしい。

・・・しまった・・・

司馬懿は一瞬のうちに血の気が引いた。

朝から曹丕様との約束があったはずだ
・・・

そう思い出し、自分を落ち着かせる。


ふと、寝台を見ると、そこには曹丕様がいるではないか。

『子桓様っ!?どうしてここに?

ますます、思考が状況についていけない。

司馬懿の頭はグルグルとまわり始める。


「私としたことが・・・こんなことで・・・まずは落ち着け・・・

司馬懿は自分に言い聞かせるようにブツブツとつぶやき、数回深呼吸をし

いくらか落ち着きを取り戻した司馬懿は記憶を辿りはじめた。



話は遡ること前日。

いつものように曹丕の仕事を司馬懿が補佐していた。

・・・仲達、これから遠乗りに出かけないか?」

仕事の途中にも関わらず、曹丕はそんなことを話はじめた。

・・・子桓様、まだやらねばならないことが沢山ありますが・・・

いつものことなので、司馬懿はいつも通りの言葉を返した。

曹丕は固くなった体をほぐすように、背伸びを悠々としている。

ポキポキと骨の鳴る音が静かに辺りを包んだ。


「相変わらず真面目だな。お前は・・・」 

クスリと曹丕は笑みをこぼすと、目の前の臣を見つめた。

ジッと見つめられて、司馬懿は胸がなった。

よくみると端正な顔立ち。

冷徹な印象を受けるが決して、それだけではない温かみがある。

それは長く付き合わねばわからない、彼の一面。

同性である司馬懿もついつい魅かれてしまうのだった。

そんなドキドキしている司馬懿をよそに曹丕は彼の胸の中に顔を埋めた。

・・・遠乗りはやめよう。仲達、一刻だけ眠る。時間になったら起こせ。」

曹丕は一方的にそういって目を閉じた。

司馬懿のテンションはますます上がり、顔が気恥ずかしさで紅くなっている。

「子桓様っ!お休みになられるなら、寝台にっ!」

もう、司馬懿は頭ン中が珍しく真っ白で何が何だかわからない。

ただ、自分の胸に身体を預ける彼が可愛くて
・・・

「仲達、少しは察しろ。」

曹丕はクスッと笑みをこぼすと司馬懿の唇に自分のそれを重ねた。

司馬懿は一瞬、キョトンとしていた。

そんなオロオロする司馬懿に曹丕は呆れた様子でつぶやいた。

『まったく・・・こうしていたいというのがわからんのか・・・

そんな司馬懿に笑みを浮かべながら、司馬懿の温もりを感じて眠りについた。




しばらくの間。

司馬懿はその可愛い曹丕の寝顔を幸せに浸りながら眺めていたのだが
・・・

「むむ、まったくわからぬ・・・

現実に意識を戻した司馬懿は記憶のない自分自に驚く。

視線を隣に眠る曹丕に落としてみるが、空白の記憶は甦らなかった。

「私としたことが・・・たかが一人の男に・・・

そうつぶやいたものの、表情はかすかに笑みをこぼしていた。

司馬懿は曹丕の額に触れるように唇を落とし、再び、曹丕の隣で眠りについた。



真相はまだ闇の中。

それはそれでいいと司馬懿は思う。

ただ。

今は、こうして愛しい人と肌を合わせて温もりを感じていたかった。

その時、寝ているはずの曹丕の顔に笑みが浮かんでいることを彼は気づいてなかった・・・






おわり